第5回 スラー
豊かな音楽表現のためにスラーを覚えよう
こんにちは、スケールは長調、短調覚えられましたか。スライドはきちんと各ポジションで正確に止められますか。最初は難しいので速さより正確さを追及して根気よく何度も練習しましょう。
スラーを練習する意義
トロンボーンのスラーはスライドがあるため他の管楽器より難しいと言われます。しかしそれが出来るようになると一番自然で美しく柔らかい音楽的なスラーになります。
音楽の中でスラーを使う時は色々な状況がえられますが、特にバラードのような曲を演奏する時に大きな効果を発揮します。
今回は誰でも知っているディズニーの名曲「星に願いを」を題材にしてスラーの練習法を解説します(譜例A)。この曲はシンプルな音使いながらとても美しく深い音楽性を湛えイメージが膨らみやすいので、スラーを理解するのに最適です。
このイメージはとても重要です(5月号参照)。まず演奏する前にこの曲を頭の中で何度も歌い込みます。次に声に出してアーで歌います。すると自然にスラーで歌っている自分に気がつくでしょう。そしてその歌の通りに楽器で演奏できるように練習します。 スラーは「星に願いを」のような曲を美しく演奏し、表現するために練習するのです。また、合奏ではトロンボーンにはこのようなメロディーの伴奏が多いのが実情です。しかし伴奏がきれいなスラーで演奏するとメロディーがとても引き立ちます。合奏は全員で一つの音楽を造り出すのです。
スラーの練習で注意すべき点は音が正確に滑らかに移り変わり、音色が変わらない事です。
WHEN YOU WISH UPON A STAR Music by Leigh-Harline (c) 1940 by BORNE CO. (Renewd 1961) International Copyright Secured.
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*ウェブサイト掲載にあたって「星に願いを」の楽譜を載せるのは著作権使用料がかかるため控えます。ご了承ください。
3種類のスラーを覚えよう
トロンボーンのスラーは大きく3種類に分けられます。譜例Aの1のような同じポジションで倍音を変えるリップスラー(ナチュラルスラー)、2のような同じ倍音の中で動くレガートタンギングスラー(ポルタートタンギングスラー、順行スラー)、3のような音とスライドの動きが反対になる逆行スラーです。Rはロータリーを引くことによってかけるスラー(主にバストロンボーン)、4は1の変形、Tはタンギング、LTはレガートタンギングを表わします。これらのスラーを組み合わせ音楽を表現します。
リップスラー
譜例Bのような練習は誰でもしているはずです。しかし楽譜を演奏することだけに気をとられていませんか。前述したように美しい音色、滑らかな音の移り変わり、正確な音程、間の音が入らないようにに十分注意しましょう。タンニングは最初の音だけしてその後は一切しません。
リップスラーは根気よく時間をかけて毎日練習しないときれいにできるようになりません。私も日々の練習でかなり時間をとっています。しかし効率のよい練習のためにリップスラーの仕組みとコツを理解すべきです。
譜例Bを口笛で吹いて見ます。音は出なくてもかまいません。その時の口の中の形と容積、舌の位置、息のスピード、下あごの位置と動きを客観的に観察します。その微妙な動きは楽器で演奏する時と同じ動きなのです。
音を高くしようとすると、口の中の容積は狭く、舌の付け根は上に、息のスピードは速く、下あごは後ろに動きます。これらの動きはどれも微妙です。その微妙な動きを体で覚え込み、音を変える時は確実にその音が出る口の中、舌の位置、息のスピード、下あごなどのセッティングを素早くします。これらのことを意識すれば効率の良い練習ができます。しかし毎日の練習の積み重ねが最も重要です。
また、レミントンのウォームアップエクセサイズというとても良いエチュードが販売されているので参考にしてください。しかしこのエチュードはウォームアップと言う名前がついていながらリップスラーの練習が中心なので、しっかりウォームアップをしてから練習しましょう。
息づかいは図1のように音は常に保つように練習します。図2のような奏法もありますが、スラーの練習は図1の息づかいですると効果が上がります。
レガートタンギングスラー
同じ倍音の中で移動するこのスラーは(譜例A-2)トロンボーン独特の物で、スライドを動かす時に軽く舌を引くのがレガートタンニングです。このタンギングを覚えるとスラーの他にも、音楽表現の幅が拡がります。
譜例Cはレガートタンニングの予備練習です。音を出す前に小さな声でルー、ルーと歌います。息は出し続けたままです。その時の舌の動きがレガートタンニングです。その舌の動きを意識しながら楽器で練習します。
譜例Dはスライドは素早く正確に移動させます。スライドを動かした瞬間にレガートタンニングをします。全て隣のポジションなので集中して丸1日練習すればかなり上達します。譜例Eは遠くのポジションに移動させる時も隣のポジションに移動するスピードを目指して練習します。
逆行スラー
音が高くなるときスライドが遠くに動いたり、倍音を越えて低くなる時スライドが手前に動くスラーです(譜例A-3)。このスラーはとても美しく、おそらく他のどの金管楽器よりも自然になめらかにつながります。
譜例Fは逆行スラーの予備練習です。最初の音だけタンニングをしてあとはタンギングをせず、グリッサンドで吹きます。高い音に移動する時は、2度音程位高い音からグリッサンドで下がるようにアプローチすると、きれいにスラーがかかります。この場合あえてスライドはゆっくり動かします。するとスラーのかかり具合が分かりやすくなります。音が下がる時はその反対に低い音からグリッサンドします。譜例Fができるようになったら譜例Gを練習します。
総合的なスラーの練習
音階は3種類のスラーが総合的に練習できます(譜例H)。一つ一つどんなスラーなのか考えながら遅いテンポで練習します。レガートタンニングスラーは軽くタンギングをしなければならないので、リップスラーや逆行スラーのように滑らかにつながりにくいものですが、全部の音が同じように滑らかにスラーがかかるように細心の注意を払って練習します。
バストロンボーンのスラー
バストロンボーンは譜例A、Hの上と下の音符、両方練習し、同じフレーズ感で演奏できるようにします。ロータリーを引くことによってかけるスラー(譜例上のR)は、他のバルブ楽器のようなスラーがかけられます。F管だけでなくG♭管、G管を使いこなせるように練習しましょう(譜例はG♭管)。
譜例 Iはレバーはしっかり最後まで押しきり、親指、中指をスムーズに速く動くように意識して練習します。
今月のおすすめCD
今月はトロンボーン四重奏団特集
素晴しいトロンボーン四重奏はいくつもある。これらのアンサンブルのどれもが、一人一人のテクニックが完成されその上に音楽が形成されている。トロンボーンの演奏が目的ではなく、音楽を表現する一つの手段としてトロンボーンを使用している。なおかつトロンボーンならではのハーモニーの美しさ、音色、響きを十分に堪能できる。毎日聴いてほしい。
パリトロンボーン四重奏団(BELLWOOD BW-1005D 他)
ウィーントロンボーン四重奏団(CAMERATA 30CM-445)
FOUR OF A KIND(SMMIT RECODS DCD123)
トリトントロンボーン四重奏団(BIS CD694 他)
スローカートロンボーン四重奏団(プロ アルテ ムジケ PAMC- 701 他)
東京トロンボーン四重奏団(キングレコード KICC 167 他)
ジャズのアンサンブルのスーパートロンボーン(SWEET BASIL APCZ-8025)
も最高。8月27日に北とぴあさくらホールでFOUR OF A KINDの演奏会があるが、アメリカ本国でも聴けないアンサンブルなので、ぜひ聴いておきたい。