2023-05-16


第6回 音域拡大


いつも音色のイメージを持って練習しよう


 こんにちは。3種類のスラーの練習は順調ですか。特にレガート
・タンギング・スラーはトロンボーンにとって重要なスラーなので入念に練習しましょう。

著作権(知的所有権)を理解しよう


   先月号の「星に願いを」の楽譜の下に(C)や日本音楽著作権協会(JASRAC)と書いてあるのを確認してください。これらはすべて著作権についての表示です。また皆さんが持っている楽譜やCDには、JASRACのロゴ、Copyright、(C)のどれかが必ず入っていて著作者の了承を得ている事を表わしています。
 著作権とは一言でいうと複製(コピー)させるかさせないかという法律です。
 正規のルートで楽譜やCDなどを購入するとそれを造った人間に対して相応の料金が支払われます。しかし、コピーを許してしまうとその料金は誰にも支払われません。言い替えれば彼のお金を盗んでしまっているのです。
 しかし現在の日本では大変残念ながらあまり守られていません。特に学校教育の現場で楽譜のコピーが平然と行われてしまっているのが多いようです。もちろん限られた予算の中でやり繰りするのも大変ですが、知らない、お金が無い、仕方が無いでは、すまされる問題ではありません。万引きと同じなのです。楽譜は正規のルートで購入してください。  

音域を拡げる


 金管楽器は唇の振動で音を造っているのでこのポジションにすると必ずこの音が出るという簡単なものではありません。そこで自分の音域を拡げる練習をしますが、良い音色でなければ意味がありません。
 トロンボーンの上の音域にはトランペットがあり、下の音域にはチューバが存在しています。トロンボーンでいくらハイトーン、ロートーンを出しても、トランペットがハイトーンを、チューバがロートーン決めれば美味しいところは彼等に持って行かれてしまうのです。トロンボーンでハイトーン、ロートーンをいくら出しても高が知れています。ですから音楽で(音色、歌い回し、ブレンド感など)自分を表現しましょう。

ハイトーンの魅力


 トロンボーンのハイトーン(高音)はとても甘く、美しく魅力があります。1930年代のアメリカのスイングビッグバンド全盛時代に大活躍したトミー・ドーシーのハイトーンはとろけるような美しさがあります1 。また、ラヴェル作曲のボレロのトロンボーンのソロなどもハイトーンの魅力があります。
 いつも書いていますが、音のイメージはとても大切です。イメージがなければただ音を出す機械になってしまいます。このフレーズはトミー・ドーシーのような音色、ここは○○管弦楽団のトロンボーンセクションのように吹きたい。などのイメージを豊富に持つことが大切です。  

ハイトーンの練習法


 譜例Aは、音域を良い音のまま拡げる練習です。まず自分で出せる最高の音を一番吹きやすい音域でロングトーンをします。同じ音を、替えポジションでロングトーンをしながらグリッサンドでゆっくり音を上げていきます。それを繰り返して音域を拡げるのです。
 そのとき良い色音のままであるのに十分注意します。音を出すのが辛いからといって、マウスピースを強く口に押し付けたり、唇を巻き込んだりし、無理やり音を出しても逆効果で、そのようにして出した音は音楽表現から程遠い音色になってしまいます。辛い音域になったらその一つ前の音域のグリッサンドを何度もゆっくり練習します。
 新しい音域を覚えたらそのアンブシュアの筋肉を覚え込むために唇の振動を意識しながらPでロングトーンをします。また、覚えた音域にすぐ移り変われるようにインターバル(跳躍)の練習もします(譜例B)。
 一日一回は自分の限界の音域まで挑戦します。注意点は吹きすぎない事です。限界の音域は一日30秒で十分効果が上がります。それ以上すると口の周りの筋肉組織が壊れてすぎてしまいかえって逆効果なので、限界点の一歩手前の音域を十分に練習しましょう。
 下顎の位置はハイトーンになると少しずつ手前に下がります。したがって楽器の角度もほんに少し下向きになります(写真1)。写真2は参考に中音域の楽器の角度です。

ロートーンの魅力


 バス・トロンボーンでのロートーン(低音)の魅力はffでのロングトーンです。オーケストラや吹奏楽でロングトーンするだけで人に喜ばれ、音楽に華を添えられる楽器はバス・トロンボーンだけです2 。バス・トロンボーンは大きな音が出やすく一人でオーケストラを吹き飛ばしてしまうパワーを持っています。それだけに音色、音程、リズム感が重要です。また、低音の包容力のある甘い音色も魅力です3 。前述しましたが、豊富なイメージを持ちましょう。

ロートーンの練習法


 譜例Cはロートーンの練習です。ハイトーンの反対でグリッサンドで下がります。注意点も同じです。ロングトーンやインターバル(譜例D)も忘れずにしましょう。
 低音は唇を緩めすぎたり、頬を膨らましたり、下顎を上げると(写真4)狭い響かない練習場ではきれいに聞こえがちです。しかしホールで聴くと芯や音程の無い音になってしまうので、中音域とできるだけ同じアンブシュアで出せるように練習します。特に下顎は常に張るように注意します(写真5)。
 下顎の位置はロートーンになると少しずつ前に出ます。したがって楽器の角度もほんの少し上向きになります(写真3)。

テナー・トロンボーンとバス・トロンボーンの違い


 毎月バス・トロンボーンについての練習法を書いていますが、テナー・トロンボーンとバス・トロンボーンは違う楽器ということを認識しましょう。
 プロのオーケストラや吹奏楽団の編成を見ると、必ずバス・トロンボーン奏者が一人います。作曲家もトロンボーンができた頃からこの編成で書いています。楽譜に3rdトロンボーンとあれば特別な指定がない限りバス・トロンボーンで演奏します。
 バス・トロンボーンがあれば音域の問題は大きく解決します。テナーが高音域を、バスが低音域と分けて受け持つので効率良く分業できます。その効果を最大に出すにはテナー・トロンボーンにはテナー用の、バスにはバス用のマウスピースを使用します4 。逆に付けてしまうと楽器の性能、音色が半減してしまいます。言い替えればトロンボーンにトランペットのマウスピースを付けて吹いているくらい不自然なのです。

今月のおすすめCD


この原稿を書いている時、元フィリプ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのバストロンボーン奏者のレイモンド・プレムル氏の訃報が飛び込んできた。私が高校生の時、初めて買ったP.J.B.E.のレコード、アイネ・クライネ・ブラス・ムジーク(LONDON.POCL-3576)で初めて彼の演奏を聴いて衝撃を受けた。そこでバス・トロンボーンの存在を知りその魅力にのめり込んでいった。今、そのレコードを久しぶりに聴きながら書いている。改めて氏の音色、リズム感、音楽に引き込まれ手が止まってしまう。また、氏は作曲家としても素晴しく金管楽器のレパートリーを大きく拡げた功績は大きい。氏の音楽、音色は心の中でいつまでも鳴り響いていくであろう。ありがとう、レイモンド・プレムル。