第4回 スケール(音階)
正確なスライディングを身に付け、体でスケールを覚え込もう
こんにちは。唇の振動を意識して練習していますか。
皆さんは楽譜を読む時どこを読んでいますか。私は、楽譜とは作曲家がメッセージを五線上に音符や記号で伝える暗号であると考えます。しかし、見てすぐ分かるようなルールに基づいて書かれています。そのルールブックが楽典です。
例えばファミコンなどゲームをする時は公式ガイドブックを読みながらゲームをすると思います。楽譜を読む時も同じで、公式ガイドブックに相当する物が楽典です。楽器店で千円位で売っていますので各パートで一冊は持ちましょう。
楽典に書いてあることは必ず覚えそれに則って演奏しましょう。特に楽譜に書いてある楽語(ほとんどがイタリア語)は全部理解してなければなりません。楽譜には音符のほかにスラー、テヌートなど色々な記号が書かれていますのでその指示通りに演奏します。
しかし音符の処理やルバートの加減までは書かれていません。これを見抜くにはある程度の知識や経験が必要です。そのためには5月号に書いたように色々な音楽を聴きましょう。
スケールを練習する意義
スケール(音階)は主に長調で12、短調はそれぞれ自然短音階、和声短音階、旋律短音階の36種類がありますこの48調1 を全部覚えなければなりません。
なぜこんな面倒な事をしなければならないのでしょうか。目の前にある曲を練習した方が良いと思うかもしれません。しかしスケールを練習していないと音程感が良くなりません。又、金管楽器の苦手な部分である音を均一に並べるのにもとても有効です。しかしこればっかりは体で覚え込むしかありません。ゆっくりなテンポから根気よく毎日練習し、いつでもすぐ暗譜で吹けるようにしましょう。
スケールの練習
スケールは前述したように48種類覚えなければなりません。しかしそれを全部書き出すと紙面が足りませんのでこの譜例を参考に自分で楽譜を全調書き出しましょう。それを見て練習してください(譜例A、B)。
練習の方法は必ずメトロノームを使い遅いテンポ(M.M.60)から始めます。各バリエーション(譜例C)、音量(f~p)、音の処理(スタカート、マルカート、テヌート、スラー、)これら全部を組合わせて練習します。
スケールと併せて半音階、3度、4度、5度音程の練習も同じようにします(譜例D)。
音階や半音階をグリッサンドでタンニングを全くつかずに練習するのも、息とポジションのバランスを取ったり、スラーの予備練習としても良い方法です。
音域はテナー、バストロンボーンそれぞれ譜例Eを参考にし、練習して下さい。
スライディングについて
スケールの練習はトロンボーンのスライディングにも大きな効果を発揮します。最初はゆっくりからスケールを練習し1~7ポジションの場所をしっかり把握し、いつもその場所で止まるように繰り返し練習します。速さより正確さを求めましょう。
手前から遠くに動かす時は親指でスライドを勢い良く投げ飛ばし、人さし指と中指でしっかり受け止めます。右腕の動きは飛んできたスライドがそのポジションに到着するより速くそこに到着させます。遠くから近くの移動も同じです。
スライドは指先で軽く支柱を摘み、手首は動かしたスライドの衝撃を和らげるように柔らかくします。
楽器は左手だけでしっかり持ち、スライドを動かした時上下左右に動かないように鏡を見てチェックします(5月号参照)。
特にバストロンボーンは楽器が重い上に中指をレバーに掛けるので薬指と小指でしっかり管を握り、持ちます。又、受け持つ音域の倍音が離れているので、スライドを移動させる距離がテナートロンボーンより大きくなるため、より素早く正確なスライディングが要求されます。
スライドのメンテナンス
正確なスライディングをするにはスライドが良好な状態になければなりません。スライドにへこみや歪みはありませんか。スライドを動かした時どこにも引っかからないでスムーズに動いたり、外管を抜いて再び内管に差し込む時少しの狂いもなく入りますか。このような問題があればすぐ楽器店で修理しましょう。そのまま使用してしまうと、加速度的に楽器が痛んでしまい演奏不能になってしまいます。
スライドクリームの塗り方も、音大生でも上手に塗れていない人もいますので解説します。外管を抜き取り内管の汚れや古いクリームを柔らかい布やティシュできれいに拭き取ります。スライドクリームを米粒2つ分位の量をストッキング(スライドの先端10cmくらいの少し太くなっている部分)に薄く塗込みます。付けすぎに注意しましょう。最後にスプレーで水を根元までたっぷり吹き付けます。演奏中少しでもスライドの動きが悪くなったらスプレーします。最近はスライドオーミックス(¥2000)やヘットマンのハイドロスライド(¥1600スプレーボトル付)など優秀な製品も販売されています。
ここまでしてまだ動きが悪い時は外管の内側に古いクリームの汚れがこびり付いています。食器洗い用の洗剤とトロンボーン用のクリーニングロッドで掃除します。ライターのジッポオイルをガーゼ(市販の物で十分)に染み込ませ掃除しても効果が上がります。
これで完璧です。
しかし楽器をケースから出し入れする時にスライドの真ん中を持ったりしてしまうとすぐ歪んでしまいます。支柱以外は持たないように習慣にしましょう。又、楽器を左手だけで支えず右手にも楽器の重量がかかっても歪んでしまいます。スライドは非常にデリケートなのです。
筋肉のメカニズム
金管楽器は体全体を駆使して演奏します。特に普段の生活であまり使わない口の周りの筋肉を多く使うため、ロングトーンやタンニングなどの基礎練習でその筋肉を鍛えるのです。効率の良い練習のために筋肉のメカニズムを理解しましょう。
筋力の向上にはトレーニングによる筋肉の増大と神経系トレーニング効果があります。 トレーニングによる筋肉の増大は疲労と休養がポイントです。疲労によって筋肉組織が一度破壊され、休養によってトレーニング前よりも大きく再生されます。これを超回復と呼びます。休養時に良質のタンパク質を摂取すると一層効果的です(豆、肉、鮪、鯵など)。超回復に必要な時間は48~72時間かかると言われています。つまり毎日何時間も同じ練習をするより、2~3日を1サイクルで日変わりで違うメニューの練習をする方が効果的ということです。しかし一日1時間位の練習量の人はあまり参考にしないでどんどん練習しましょう。
神経系トレーニング効果とは先月号にも書きましたが、筋肉に一定以上の負荷をかける時、そこに意識を集中させると大脳の運動中枢が刺激され、大脳から指令が出されその結果筋力が高まります。練習する時どこの筋肉を鍛えるのか目的意識を持ってすることが大切です。
今月のおすすめCD
ジャーマンブラス ブラスの魂 (東芝EMI TOCE8529) 他
ドイツのトップクラスのオーケストラのメンバーのよって編成されたブラスアンサンブル。トランペットからチューバまで統一された響きの中で輝かしいff、絶妙なPP、弦楽器のようにしなやかに歌う旋律、どれをとっても素晴しい。私の尊敬するバストロンボーン奏者のJ.ミッテルアッハーやS.ポッペが参加。
R.シュトラウス オペラ「薔薇の騎士」(ソニークラシカルCSCR8083~5) バーンスタイン指揮 ウイーンフィルハーモニー
音楽の原点でもある歌を主体とした総合芸術であるオペラも聞きたい。ウイーンの音楽と貴族を舞台にしたこのオペラを歌手陣、オーケストラの魅力を十二分にバーンスタインが引出し極上の音楽を造っている。最後のソプラノの三重奏、それに続くオーケストラの後奏は魂が浄化されるような美しさがある。他にC.クライバー、バイエルン国立管弦楽団(グラモフォンPOLG1052~3)もお薦め。