第2回 ロングトーン
自分の音をよく聴きながら美しい音で吹こう
こんにちは、あなたが出したいトロンボーンの音のイメージを見つけられましたか。できるだけ具体的にイメージしてください。私のイメージは柔らかい、豊かな響き、輝かしい、暖かい、遠鳴りする、スムーズ、クリアなどです(音を言葉で表現するのはとても難しい)。
このイメージが具体的になればなるほど、早く上達します。逆に言えばイメージが無ければいくら練習しても上達しません。
今月のテーマはロングトーンです。でもロングトーンの前にしなけばならないことがあります。
ウォームアップ(ウォーミングアップ)
眠っている体(筋肉)と感覚を起こし、練習できる状態にするのをウォームアップと言います。楽器を吹く時は普段の生活と違う筋肉を使います。まずその筋肉を目覚めさせましょう。
体全体を目覚めさせる・・・起きてから3時間たってれば大丈夫ですが簡単な柔軟体操やストレッチをすればより効果的です
肺を目覚めさせる・・・普段の生活では肺の20~40%位しか使っていません。100%近く肺を使えれば楽器のコントロールがしやすくなります。 まずリラックスして自然に立ちます。そして息をたっぷり吸い(鼻から吸う1 )そのまま一度息を止めもう一度吸います。そしてもう一度息を止めまた吸います。普通は三回は吸い直せます。この時点ではだいぶ苦しいはずです。
今度は反対に息をゆっくり全部吐き出しますさっきのようにそのまま一度息を止めもう一度吐き出し三回は吐きます。これを最低3セットします。
次に再び息をたっぷり限界まで吸い一度息を止めます(今度は口からホーッと吸う)。そのまま両腕を上にあげ手を組みます。息を止めたまま上半身を前後左右に動かし、手を降ろしながらゆっくり息を吐き出します。これも3セットします。(肺の浄化と呼び肺の中の空気を入れ替え、新鮮な息で吹く2 )。
誰でも頭がくらくらするはずです。何ともない人はよほど強靭な肉体を持つ人か息を吸う量が少ない人です。 これでだいぶ肺が目覚めたはずです。
この段階では腹式呼吸など考えずに息をたくさん吸う(吐く)事を考えます。
唇を目覚めさせる・・・まずマウスピースを使ってバズィングをします。自分が一番出しやすい音を中心に、だんだん幅広い音域を出します。一つの音だけに片寄ると唇の周りの筋肉が固く緊張してしまいます。
唇がある程度ほぐれたらピアノのような正確な音程の出る楽器で音を取りながらマウスピースでバズィングを続けます。そのパターンは自分で一番吹きやすいパターンを見つけましょう(譜例1)。くどいようですが一つの音だけに片寄らないで下さい。
ここまでで私は最低15分はかけます。勿論人によって多い少ないはありますが、この時間をおろそかにすると良いコンディションをつくりにくくなります。
楽器を吹く・・・いよいよ楽器を吹きます。この時点で体の筋肉と感覚は目覚めているはずです。ですからウォームアップをしながら先月書いた持ち方も鏡を見ながらチェックしましょう(譜例2)。
バズィングは効果的な練習法
バズィングとは唇を振動させて音を出す事ですが国によって少し違います。主にヨーロッパでは唇だけで音を出す事を指し、アメリカではマウスピースを使って音を出すことを指すようです。私は混乱を避けるために毎回書き分けるようにします。
マウスピースを使ったバズィングは非常に有効、効果的な練習です。
試しにチューニングスライドを抜いて音を出して下さい。バズィングの音がそのまま増幅して聞こえます。トロンボーンの音色の大部分はベルで造られているのです。ということはバズィングで良い音で正確に吹ければトロンボーンでも良い音で正確に吹けます。マウスピースを使ったバズィングは楽器を吹く時より抵抗が少なく、響きも少ないので手を軽く握って持つと吹きやすいです(写真1)。
楽器が吹けない時は22cm位3 のビニールパイプ(金物屋で1m200円前後で売ってます)を使って練習します(写真2)。
ロングトーンは基礎中の基礎
ロングトーンは金管楽器にとって基礎中の基礎です。自分の音を良く聴いて次の事に注意して練習しましょう(譜例3)。
呼吸(ブレス)・・・息は絶対に止めない。ウォームアップでは止めていたが楽器を吹く時は、吸ったらすぐ吐く。円の動きをイメージする(図1)。
発音(アタック)・・・音の出だしは明確であること。「スパー」、「パフー」「タッー」、「タウー」のようにならない(図2)舌の動きに頼らずクリアに発音する。ノーアタックの練習も効果大。
音色・・・美しい音でなければ意味がない。自分の出したい音のイメージと自分の音の違いを具体的に認識する。豊かな息づかい、息を50m100m先に届かせるイメージ(速い息という意味ではない)や目線を遠くに置く(10m)のも必要。
音の揺れ・・・音が出てから消えるまで音量、音程、音質が寸分変わらないようまっすぐのばす。口の中、のど、唇が動かないようにする。しかし無理やりまっすぐのばしてもダメ、あくまでも自然に。だから息が少しでも足りなくなったらそこで吹き終る。
音の処理・・・音の最後は自然な余韻がつくように(図3)。この余韻はつけようとしてつくものではなく良い奏法した結果自然についてくるもの。特に音を舌で止めたりのどを絞めるのは厳禁(図4)。口の中の容積を変えたり舌やのどを一切動かさないのがポイント。 以上、考えることはたくさんありますが萎縮しないようにしましょう。リラックスしながら集中するのが重要です。
練習は量より質
練習できる時間は限られています。だらだら1時間練習するより集中して10分の練習がよほど効果的です。何のための練習か、どこに注意するのかよく考えて練習しましょう。
練習場所も重要です。演奏する空間を含めて楽器です。周りの空気を全て響かせるイメージで音を出します。静かな広い場所(ホールが最高だが体育館や屋外でも可)で自分の音をよく聴きながら練習します。特に遠くで鳴っている音を聴くようにします。
指導者、先生について
今月号のテーマに直接関係ありませんが、どうしても書きたい事があります。
数年前にある学校に教えに行った時、その学校の先生が質問してきました。さぞかし専門的なことと思いよく聞くと「cresc.ってなんですか?」「?????・・・」
読者の皆さんも「えっ?」てなりますね。学校の音楽の先生がです。もう本当に驚きました(実話です)。
かと思えば別な先生は金管や木管、打楽器をほとんど自分で持って、生徒に指導するために各楽器の演奏者に個人レッスンを受けています。
どちらがプロフェショナルな先生か一目瞭然です。
「私は楽器のことがわからなくて。」という先生、この言葉はプロの教師として大恥です。
わからなければ勉強しましょう。今は情報過多の時代です。情報を知らないのは先生の怠慢です。今だに変な練習をしている学校がかなりたくさんあります。生徒達がかわいそうです。ご意見、反論待ってます。
今月のおすすめCD
J.アレッシィー ニューヨークの伝説 CALA CACD0508
ニューヨークフィルの首席トロンボーン奏者。コンピュータのような正確なリズム、音程で表情豊かな演奏を聞かしてくれる。トロンボーンの演奏スタイルは現在いくつかあるが近い将来彼のスタイルが主流になるであろう。後半では私の尊敬するバストロンボーン奏者のD.テイラーも参加し歯切れの良いリズム、音色が聞ける。トロンボーン吹きのお手本の1枚。
スピルバーグ・スクリーン・ミュージック・ベスト~ WILLAMS ON WILLAMS
J.ウィリアムズ指揮/ボストン・ポップス・オーケストラ SONY SRCR1500
この組合わせはどのアルバムをきいても楽しい。音程、ブレンド感が最高。特にffでも決して力まない金管楽器の音色が美しい。又、録音のテクニックも素晴しく、各楽器のバランス、細かいニュアンスが一段とよく伝わってくる。