2024-02-28


第9回 音 色


感動する心が最大のエネルギー


「トロンボーン:低音域は深く神秘的で高音域は輝かしく誇り高い。ピアノは豊潤で時には厳粛だ。フォルテは力強くそして朗々と響きわたる。」
 これはロシアの作曲家のリムスキー=コルサコフの言葉です。リムスキー=コルサコフは、吹奏楽でもよく演奏される「シェーラザード」や「トロンボーンコンチェルト」などを作曲した偉大な作曲家です。彼のトロンボーンに対する想い、畏敬の念がこの言葉に現われています。このように作曲家は、トロンボーンに限らず各楽器に色々な想いを込めて作曲しています。
 今月のテーマは音色です。良い音色で演奏するために演奏家は一生追及し、練習します。その考え方と練習法を紹介します。

トロンボーンの音で感動する


 今までトロンボーンの音を聴いて感動した事がありますか。中、高校生にこの質問をすると、「トロンボーンの音に感動したことがない。」と答える人が大半です。悲しく、寂しくなってしまいます。これでは良い音色は出せません。   一度でも感動すればそれがイメージとなり、同じ音を出そうと練習します。感動が何度か続けばより鮮明なイメージとなり練習は一層効果的になります。
 感動する心が最大のエネルギーなのです。このエネルギーがなくては、練習の効率も格段に悪くなってしまいます。特に中、高校生の年代は感動や感情を表現するのは照れ臭かったり、格好悪いと思いがちです。しかし音楽は感情を表現するものです。感情がなければ機械と一緒で、コンピュータで演奏するようにただの音の羅列になってしまい音楽とかけ離れてしまいます。
 では何時、何処に行けばトロンボーンの音に感動できるのでしょうか。
 それは生のコンサートに足繁く通うことです。しかしなかなか難しいと思います。そのときはCDを買ったり、TV(ドラマやCMの音楽も良いものが沢山ある)、FM放送のエアチェック、学校の音楽室の資料など、いつも情報、音楽に敏感になっていれば身近な所にいくらでもあります。しかし生演奏にかなうものはありません。オーケストラ、吹奏楽、金管バンド、室内楽`などジャンルは問いませんが、プロの演奏を聴くようにしてください。

音楽感と同時に音色も養おう


 音楽を造り出す一つの重要な要素として音色があります。例えばどんなに美しくメロディーを演奏しても音色が良くなければ感動できません。逆に音色が良くてもメロディーを唄えなければ機械と同じです。音楽感を養うと同時に音色も養います。
   音色を良くするにはイメージが最も重要です。イメージは毎月書いていますが本当に大切なのです。イメージは頭の中にあるので表現するのは難しいのですが、初めはできるだけ言葉で表わすようにします。「柔らかい、豊かな響き、輝かしい、暖かい、遠鳴りする、スムーズ、クリア、深く神秘的、誇り高い、厳粛、力強い」など言葉で表現すると、どんどん具体的なイメージができあがります。タイトルのリムスキー=コルサコフの言葉もそうです。
 参考に、日本大学芸術学部教授であり世界中のトロンボーンコンクールで審査員を務める永濱幸雄氏の言葉を載せます。
「トロンボーンのハイトーンには魔法が隠されている。神が宿っていると言ったほうが正しいかもしれない。そこには人の心を和らげたり、人を諭す作用や、将来を予測する啓示的な響きが潜み隠されていると考えている。」(永濱 幸雄)

良い音色を創る


 良い音色を出すにはまずロングトーンをします。しかしただロングトーンをしても効果が上がりません。注意すべきポイントをしっかり押さえて効果的な練習をしましょう。

イメージ・・・前述した通り重要です。

音を聴く・・・自分の音を聴いていなければ、もし変な音を出していても気が付きません。気が付かなければそこで上達はストップしてしまいます。イメージした音色と自分の音の違いを聴き分けます。

練習場所・・・練習場も楽器の一部です。本当は本番の会場(ホール)で練習できれば最高ですが、プロのオーケストラでも難しいのが現状です。学校ではできるだけ広い静かな場所を見つけてください。体育館が良いでしょう。私は屋外で練習するのも結構好きです(風の無いときに限る)。そして自分の音を聴くには、静かな場所でなければ聴けません。個人練習は一人一部屋がベストです。

唇の振動・・・7、8月号で書いた神経系トレーニングで、唇の細かい振動や周りの筋肉を意識すれば鍛えられます。唇の振動を意識する練習は譜例1を参考にしてください。

楽器・・・「弘法筆を選ばず」という諺がありますが楽器では大間違いです。楽器は選んで下さい。「何でこんな楽器で吹けるの」といった物に時々出会います。良くない楽器で練習すると上達のスピードは1/10位になってしまい、その上悪い癖が付いてしまいます。善し悪しの判断は専門家か、良い悪いをはっきり言える、信頼できる楽器店に相談しましょう。本当に良い楽器は音色や奏法、音楽を教えてくれます。
 元の楽器が良くても手入れが悪ければ駄目な楽器です、8月号に書いたスライドのメンテナンスを読み直して下さい。スライドだけでなくチューニング管、スライドの先のU字管などにへこみはありませんか、その部分のへこみは致命的です。この曲がった部分は音に大きな影響があるのです。私は響きを良くするために石突きゴムを取って演奏しています。
 また、ロータリーのずれもチェックします。ロータリーのふたを開けて軸と外側の印が一致していますか、一致していなければゴムやコルクを削ったり、取り替えて調整しましょう。

替ポジション・・・ロングトーンをするとき正規のポジションで吹いた後、替ポジションで吹くと良い音色になります(譜例2)。常に替ポジションで吹くのではなく正規のポジションの音色に近づけられる様に交互に練習します。注意点は力ずくで鳴らさず、楽器が自然に響くようにていねいに練習します。
集中・・・上記の練習はすべて集中します。集中すれば1時間の練習が15分で出来、そして集中すればそれだけ身に付きます。

バス・トロンボーンの音色


 バス・トロンボーンの音色も色々な幅があります。トロンボーンセクションの一人、チューバとトロンボーンセクションの中継ぎ、チューバとのユニゾン(チャイコフスキーの白鳥の湖「組曲」の最後など)、木管楽器の支え(シューベルトの未完成、2楽章の最後27小節の木管楽器とのコラールなど)、弦楽器の補強(ベートーヴェンの交響曲9番、4楽章のAndante maestosoなど)。
 これらの場面に応じて音色、アタック、音のスピード感を変えて演奏します(楽譜の見た目は簡単だがオーケストラで演奏すると実に難しい)。
 上記以外にもまだまだ沢山あるので、多くの演奏を聴いてイメージを膨らまし、良い音を出しましょう。

今月のお薦めの本


竜馬がゆく(文春文庫)全8巻 司馬遼太郎
おすすめCDは今月は休み。本を数多く読むと感性が磨かれ音楽表現の幅も拡がる。この本は私が学生の時から何度も読み返している。幕末維新史上の奇蹟といわれた坂本竜馬の劇的な一生を描いた歴史小説。藩どうしでいがみ合っていた時代に、ただ一人日本の将来を考えられるグローバルな感覚を持ち、自分がどんな立場に置かれても常に前向きに考え、実行し成功させる行動力を持つ竜馬の生き方は、勇気と希望を与えてくれる。