2018-11-24


第3回 タンギング


唇の振動を意識し、発音の瞬間を捕まえよう


 こんにちは、良い音でロングトーンしていますか。
 あなたはロングトーンのような基礎練習は好きですか。私は正直言ってあまり好きではありません。
 ではなぜ好きになれない基礎練習をするのでしょうか。それは自分の思い通りに音楽を表現するためです。スポーツ選手に置き換えると理解しやすいでしょう。
 試合だけするスポーツ選手はいません。試合に勝つために毎日辛い厳しいトレーニングをするのです。音楽も同じでより良い音楽表現をするために辛い単調な基礎練習をするのです。ちなみに私は一日最低1時間、時間のとれる時は6、7時間基礎練習をしています。
 今月のテーマはタンギングです。それについての考え方、練習法を解説しましょう。

唇の振動を意識する


 音を出す時注意する点は明瞭な音の出だしを考えます。不明瞭な出だしをしてしまうと、自分では正確なリズムで演奏しているつもりでも他人にはリズムが遅れて聞こえてしまいます。
 そのためには息を出した瞬間に唇が振動しなければなりません。
 例えば電車の汽笛で「パーン」と大きな音を出した時を思い出して下さい。音の出だしは明確です。汽笛を鳴らす装置は弁に空気を送るだけで、人間の舌に相当する部分はありません。空気が送り出された瞬間に弁が振動し音が出るのです。
 譜例1は唇の振動を感じるための練習です。まず一番出しやすい音をmfからppまでデクレシェンドし、3小節目はノーアタックで吹きます。初めは難しいと思いますが意識を唇の振動に集中させるとその部分の筋肉が発達します1 。注意する点は口の中の容積を変えたりアンブシュアを一切動かさないようにします。

発音の瞬間を感じ取れ!


 発音の瞬間こそがタンギングの極意です。まずその瞬間を感じ取りましょう。
 マウスピースを当てずにアンブシュアを作ります(写真1)。そして息をゆっくり吸いppで吹く位の息の量、スピードで吐きます。その時、唇の中心に息の通る穴ができます(写真2)。この穴ができる瞬間に「プッ」と小さな音がします。唇を少し湿らせると出やすいでしょう。
 この時舌は動かさないようにします。人によっては「パラッ」と2、3回音がしてしまう場合がありますがこれは唇の両端が緩んでしまっています。口笛を吹くように唇の両端を締めましょう。 
 この「プッ」という音が発音の瞬間です。とてもデリケートですがこれは誰にでもすぐできるものです。
 この「プッ」ができたらこのイメージを持ってもう一度譜例1を練習するとノーアタックの時、音を出しやすくなります。

舌の動き


 ここまで読んだ読者は今月のテーマはタンギングなのに、なぜ舌の動きの解説がないのか疑問に思うことでしょう。舌の動きはタンギングの補助なのです。タンギングは日本語で舌突きと訳されますが舌を突くと考えるより舌を離すと考えて下さい。
 舌の動きは最小限にします。動きが無駄に大きいと明確なタンギングができなくなるばかりでなく、音色までが駄目になってしまいます。
 舌の動きを把握するにはささやくように小さな声で「トゥー」と言います。その時の舌の動きが最小限なのです。又、舌のどこが前歯の裏のどこに当たっているのか確認します。舌の先が上の前歯の付け根から先端に当たっているはずです(図1)。
 舌の先は点で当たるようにイメージします。広い面や舌の上で当ててしまうと繊細な発音ができません。上の前歯の裏は音域によって舌が当たる所が違います。高音は歯の付け根、低音は歯の先端か上下の歯の間です。口の中の上や、下の前歯の裏に舌が当たるとべたべたした発音になってしまいます。

音の処理と混同しない


 しばしばタンギングを音の処理と混同される時がありますが区別して考えて練習しましょう。音の処理は大きく分けてテヌート、ノーマル、マルカート、スタッカートに分けられます。
 テヌートは音を保って吹くことですが音を膨らますと勘違いする人もいるので注意しましょう。
 ノーマル、マルカート、スタッカートと音の処理はだんだん短くなっていきます(図2)。ノーマル、マルカート、の音の処理は微妙な所ですが曲の雰囲気によってそれぞれ変わります。
 スタッカートで注意する点は音を短くしようとするあまり息を舌で止めることです。すると響きが無くなってしまい音楽とかけ離れてしまいます。スタッカートは音を短くするより、次の音と分けると考えます。 
 音の処理は息の量でします。前述しましたが口の中の容積を変えたりアンブシュアを一切動かさないようにしましょう。
 譜例2は発音、音の処理に十分注意し、色々なヴァリエーションで遅いテンポから練習し、正確に出来たら少しずつ(M.M.2~4)テンポを上げます。
 発音や音の処理のイメージも大切です。私は発音、マルカートはティンパニーの様な音の立ち上がりと余韻を、スタッカートは弦楽器のピチカート、テヌートはパイプオルガンをイメージして目指して練習しています。
 時々タンギングは速い方が勝ち、と考えている人がいます。勿論速く出来たほうが望ましいのですが、速さより明確な発音、正確な音の処理を目指しましょう。それが出来れば自然に速く出来ます。

バストロンボーンのロータリーとポジション


 2ローターのバストロンボーンを使用の人はその楽器のロータリーが並列か直列、G管かG♭管か把握しましょう(現在販売されている楽器のほとんどは直列G♭管です)。
 並列ロータリー(Out Line又はOff Set)はレバーを何も引かない時息が1つのロータリーを通るシステムで、親指で2つのレバーを操作するか、中指のレバーが付いていても親指のレバーを引かなけれ息が流れない構造になっています。2つのレバーを同時に引くとE♭管(F/E♭)になります。
 直列ロータリー(In Line)はレバーを何も引かない時息が2つのロータリーを通るシステムで、中指のレバーを単独で使うことができます。この中指のレバーは楽器によりG管(F/G/E♭)、G♭管(F/G♭/D)に分かれます。G管、G♭管を単独で使えるように練習するとバルブ楽器のようなスラーがかけられます(譜例3)。今回のセミナーでは次のようにレバーを引いたポジションを表わします(図3)。
 F管やG♭管を引いた時のポジションは通常の1~7ポジションと変わります(表1)。楽器によってポジションは微妙に違いますのでチューナーやピアノ、耳を使い正確なポジションを見つけましょう。最低太枠のポジションは使えるようにしましょう。  

今月のおすすめCD


C.リンドベルグ ヴィルトーゾトロンボーン他
輸入元:キングレコード BIS CD-258、他現在ソロのトロンボニストとして世界一多くのCDを録音し、そのどれもが音楽や技術が素晴しくトロンボーンの表現力の幅を広くした。トロンボーンに携わっている人は最低1枚は持っていて欲しい。

P.カザルス バッハ/無伴奏チェロ組曲全曲 東芝EMI CE30-5213~4
スペインの今世紀最大の偉大なチェリスト。1930年代の録音で録音状態がよくないがそれを全く気にさせないほど密度が濃くみずみずしい音楽がほとばしっている。音楽とは何かと語りかけてくる名演奏。